「それ、僕に聞く?」

「だってこの街に詳しいでしょ」


僕が知ってて当たり前。僕が知ってて当然だ、とでも言いたげな表情で、僕を見る。

けれど、友達もいなければ、放課後誰かと遊びに行ったことのないこの僕が、


「そんなこと知ってると思う?」


僕は、知らない。

生まれてずっとこの街にいるのに、何も知らない。

僕が住んでる街のことなんて今まで知ろうとも思わなかったし。


「向葵くんなら知ってるかなって思ったんだけど」

「なんで?」

「だって向葵くん、あの文庫本好きでしょ?」


そう告げられた瞬間、藍原に貸した文庫本が頭に浮かぶ。

僕は「あ」と声をもらす。

なぜならば、あの中に登場する展望台はこの街が題材となっているからだ。


「だから、あの展望台がどこにあるかも知ってるのかなって思ったんだけど…」


違ったらごめん、と声色を落とした三日月さん。


……ほんとだ。三日月さんに言われて思い出した。

僕は、あの展望台に幼稚園児のときも小学生のときも家族と一緒にいったことがある。