「向葵くんが自分から藍原くんに何かを頼み事するなんて意外なんだもん」

「だからそれは…」


藍原が嘘ついただけで、と言おうと思ってやめた。

その嘘を説明してしまえば藍原が三日月さんに嘘をついたということがバレる。そうしたら、あとで僕にとばっちりが来るのは予測できていた。


「だからそれは?」

「いや、なんでもない」


真実をゴクリと飲み込んで、のどの奥に押し込んだ。


「向葵くんって何気に言いかけたこと飲み込むよね」

「そう、かな」


確かに自分でも自覚済みだけれど、今のは藍原のために仕方なく……だ。

いや、藍原のためってのも何かおかしいけど。


まあいーや、と言って笑ったあと、


「それより私ね、綺麗な景色見てみたい」


なんの前触れもなく告げられるから「は?」と思わず声がもれる。


三日月さんは、いつも突然だ。

話の前後の流れが全然違う。だから僕は、その時間軸に追いつけずに、思考が停止することがよくある。


「……綺麗な、景色?」

「ほら私、まだこっち来て日が浅いから分からないの。おすすめのスポットとかおすすめの景色とかあったりする?」


そりゃあ確かに三日月さんより、この街に住んで長いし。なんなら生まれたときからこの街だけれど。