はあ、ため息をついて仕方なく、ちょんっ、と指先を彼女の手のひらに触れた。


「はい、これでおしまい」

「えっ、ちょっと待って! 私、全然分からなかったんだけど! もう一度やって」

「やだよ。自分がそれでもいいって提案したんじゃん」

「したよ! したけどさあ……っ!」


自分が提案しておいて僕に逆ギレなんて、ほんと理不尽極まりないな。

「ふあ〜あ…」あくびが出た僕。


そういえば、昨日は新しく買った文庫本を読み耽って深夜まで起きてたんだっけ。どうりで眠たいはずだ。


「僕、寝るから」


毛布を頭まで被ってベッドに突っ伏した。


「えー、結局握手はしてくれないの?」

「するわけないでしょ」


カサカサとカーテンが揺れる音が聞こえる。
三日月さんが手をばたばたされているんだと思って、振り向きはしなかった。


「じゃあせめて話でもしようよ。まだ先生帰って来てないんだしさ」

「僕はパス」


「えー」不満そうな声をあげながらジタバタしているのか、ベッドが軋む音が響く。

耳に入り込む音を意識的にスルーしながら、横になりながら目を瞑ると、風が吹いてそよそよとカーテンが揺れる。

その何気ない空気感が僕の睡魔を襲う。


「ねー、向葵くん」


声をかけられるけれど「んー…」と生返事をするだけで、意識はどんどん遠のいていく。


授業中、保健室でサボるなんてバカみたいだと、前の僕なら思っていた。
実際、そんなやつらを僕は心の底で笑ってた。

けれど、ほどよく風が入ってきて、真っ白なカーテンで締め切られた空間が意外にも心地よくて。

なるほど、これなら納得だ、そう思った。