頑なに拒む僕と、頑なに握手をしようと前のめりの彼女の言い合いは平行線を辿る。
やいのやいのと争いは続き、終わりのない戦争のように見えた矢先「じゃあ」言いかけた彼女は、
「向葵くんが絶対に握手しないって言うなら、私、カーテン開けてそっちに行っちゃうけど」
まるで先手を打たれた気分だった。
「……卑怯」
思わず、ボソッと呟くと、
「私だってこんな手は使いたくないんだよ? でも向葵くんが素直に頷いてくれないから」
つまり、どうやら強硬手段に出たのは僕のせいらしくて。
でも、こっちには、何の非もない。
「私はね、ほんとにただ、向葵くんにありがとうって伝えたいだけなの」
「じゃあそれでいいじゃん」
「ほんとは顔を見て言いたいの。でも、いつ先生が帰って来るか分からないから、せめて握手だけでもと思って…」
僕は、感謝されるためにここに来たわけじゃない。
三日月さんが心配だっただけであって、見返りを求めたりもしない。
それに、
「気持ちだけで十分だから」
握手しなくたって気持ちは伝わる。
三日月さんがどれだけ感謝してるのか、僕にも届いた。
それなのに、
「向葵くん、お願い」
声色の落ちた彼女の声が、カーテン越しに響く。
「握手が嫌なら指先をちょこっと手のひらにつけてくれるだけでもいいの」
なんて、食い下がるものだから。