──ふわっ。

窓から入り込む風が、心地良さそうにカーテンを揺らす。それに意識を奪われていると。


「たくさんの人に心配してもらえて私は幸せ者だなぁ」


しみじみと声を落とした彼女に、え、と気の抜けた声をもらす僕。


「……幸せ者?」

「だってさっき来てくれた人たちも、向葵くんも。みんな私のこと心配して見に来てくれた」

「は? いやだから僕は、べつにそういうわけじゃなくて…」


どうしても心配していたことを肯定することが嫌で。

だってそれを肯定してしまえば、藍原と同じ立場になったようで気恥ずかしくなるから。
僕は、べつに色恋的な意味で気にかけているわけじゃない。ただ、ほんとに“倒れた”と聞いて心配しただけであって。


「でもさ、向葵くん、自分の身を危険に晒してまでもここに来てくれたじゃない」

「だから、それは」


これ以上うまい言い訳が見つからず、咄嗟に言葉に詰まったとき。


「ありがとうね、向葵くん」


僕が何かを言うまえに、三日月さんの言葉がカーテン越しに聞こえてきた。

顔も姿も、何も見えなくて。どんな表情で言っているのだろうか。さっぱり、検討もつかなくて。