「もしかしてその声、向葵くん?」
カーテン越しに聞こえた聞き覚えのある声に、一瞬どきっと緊張が走る。
「……三日月さん…だよね」
「うん、そうだよ」
顔が見えないのに話してるってなんか不思議だ。
声だけ聞いてると元気そうだけれど。
「さっき、三日月さんが倒れたって聞いたけど」
「え? …あー、うん。倒れたって言ってもただの貧血なんだけどね」
カーテン越しに笑っているのが聞こえる。
顔は見えてないのに、頭の中に三日月さんの笑顔が浮かんだ。
「……大丈夫、なの?」
「 うん、大丈夫だよ」
なんだ。よかった……。
ていうか、呆気なく安否確認できたけど、これからどうしよう。今から授業に出るってのも怪しまれるしなあ。
なんて考えていると、向こうでクスッと笑った声がかすかに聞こえたあと、
「もしかしてそれでここに潜入してくれたの?」
「え、いやっ……さっきのサッカーで少し怪我しただけだから…」
先生に答えたように、お腹が痛かったから、と説明をすれば丸く収まったはずなのに。どうして僕は、彼女の前では嘘が下手くそなんだろう。