「君、最近ここに来た子でしょ? 名前、なんて言うの?」

 縁側の窓の縁に背を凭れながら首を傾げた清一様が、にこりと笑いかけてくる。

 同年代の男の子はもちろん、五つか六つは年上と思われる清一様のような男の子から声をかけられたのは初めてのことで。どうしていいのかわからず、胸が騒いだ。

 枝で引っ搔いた人差し指を握りしめて黙っていると、清一様が縁側の外に置いた下駄を突っかけて庭に出てくる。

「指、どうかしたの?」

 下駄の音をカラコロと鳴らしながら近付いてきた清一様が、わたしの手を取った。

「あぁ、枝で切れちゃったんだね」

 清一様が薄っすらと血の滲むわたしの人差し指を見て哀れむように眉尻を下げる。使用人の分際で、この家の御子息にこの程度の怪我を気にかけていただくなんて恐れ多い。

 急いで手を引こうとすると、軽く背を曲げて姿勢を低くした清一様が、わたしの人差し指をそっと口に含んだ。思いもよらないできごとに、身体が固まって動けなくなる。

「汚い」と。そう思うのに、もう長いこと声を出していないわたしの唇は、清一様を見つめてただ震えただけだった。

 姿勢を低くした清一様の目を伏せた顔は、睫毛が長く、鼻筋がすっと通っていて美しい。目の前の清一様をじっと見つめていると、彼が上目遣いに視線を上げて、口に含んだ私の人差し指先を熱い舌でゆっくりと吸い取るように舐めあげた。

 彼の黒曜石のような瞳が揺らめいて、わたしを捉える。ゾクリとした。子どもと大人の狭間にいる彼が一瞬だけ見せた、艶美な表情に。