「庭の掃除はさっさと済ませて、台所のほうを手伝ってちょうだいよ。今日はお客様があるらしくて、忙しいんだって」
桜の花を見つめているわたしに、伯母が声をかける。それに小さく頷くと、彼女はため息を溢しながら去ってしまった。
風に舞う桜の花弁を横目に眺めながら掃き掃除を再開させていると、不意に庭の砂を蹴る音がした。伯母が戻ってきたのかと思って気にせず掃除を続けていると、近付いてきた足音が背後で止まる。
「さくら」
わたしの名前を呼ぶ低く柔らかな声に、ドクンと胸が高鳴る。
振り向いたその先に見えたのは、清一様で。力の抜けた手のひらから箒が離れて、地面に落ちた。
「ごめんね。向こうで滞在期間が伸びてしまって、帰ってくるのが遅くなってしまった」
放心するわたしを見つめながら、清一様が困ったように眉根を寄せる。
「あのあと何度か手紙を出したんだけど、さくらからの返事がなくて……だから、もうここへ来ても会えないかと思った」
「手紙、は……」
「うん?」
「わたしが受け取った手紙は、一通だけです」
震える声でそう言うと、清一様が大きく目を見開いた。
どうして他の手紙がわたしの手元に届かなかったのかはわからないけれど。わたしが受け取ったのは、四年前の冬に貴方がくれた一通だけ。
だから……。