清一様が日本を経って二年が過ぎた頃、お屋敷の持ち主が変わった。清一様のお父様である旦那様が、親戚一家に使用人も含めて売り渡したのだ。

 主人が変わっても、お屋敷に勤める私たちの生活は変わらない。だが、元旦那様や清一様のことは何一つわからなくなった。

 半年ほど前に、清一様が何処ぞの華族の御令嬢との婚約したらしいという、出処のよくわからない使用人間の噂話を聞いた。それを聞いて以降、わたしが清一様を待っていることを知っていて黙認していた伯母が、わたしに他の男性との結婚の話を持ち出してくるようになった。

 元々、叶うはずのない恋だった。

 それが一瞬だけでも成就しただけで満足しなければいけないはずなのに。わたしは、約束と手紙をくれたまま数年経っても現れない清一様のことが忘れられない。

 それに、どうしても信じられないのだ。わたしに優しかったあの人がこのまま約束を放棄するなんて。

 だから、裏庭の枝垂れ桜の花が開くと期待してしまう。

 今年こそあの人がわたしを迎えに来るかもしれない、と。