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「あぁ、またここにいたのね」

 風に乗って舞う薄紅色の花弁をぼんやりと眺めていると、和館の陰から伯母が姿を見せた。

「庭掃除からなかなか戻らないから、何をしているのかと思ったら」

 気まずげに頭を下げると、彼女が出会った頃よりも老いて柔和になった顔を歪めた。

「今年も待ってるのかい?」

 彼女が呆れた目でわたしと、横髪にさした髪飾りを見つめる。

「いくら待ったところで、使用人のあんたは清一様の妾にもなれないよ。それに、このお屋敷はもう前の旦那様の持ち物でもないんだよ」

 ややきつい口調で諭すように語りかけてくる彼女が、内心では身内としてわたしを心配してくれているのはわかっている。それに、清一様のことを諦めてお屋敷で使用人として働く年頃の男性と身分相応の結婚をするべきだと思っていることも。

 手紙が届いてから三度の春が過ぎても、清一様はわたしを迎えに来なかった。

 裏庭の枝垂れ桜の花が開く度、今年こそは、今年こそは……と願うわたしの期待は打ち砕かれる。