清一様からの手紙が届いたのは、彼が日本を経ってから一年が過ぎた冬だった。

『裏庭の桜が咲く頃に、君のことを迎えに行きます』

 ひさしぶりに目にする清一様の字に、手紙を抱きしめた胸が踊った。

 春はまだ先だというのに、毎日のように和館の裏庭に足を運んでは桜の木につき始めた蕾から花開くのを待った。

 やがて冬が終わり、春が訪れ、裏庭の枝垂れ桜はひとつ、ふたつとその枝に花を咲かせ始めた。

 ひとつ目の花が開いた日、もしかしたら清一様が現れるのは今日かもしれないとそわそわとした。

 五分咲きになった日、普段よりも丁寧に髪を鋤いて、桜の髪飾りを付けて朝から晩まで張り切って働いた。

 満開になった日、清一様との出会いを懐かしんで、桜の木の下で会いたい想いを募らせた。

 薄紅色の花が半分ほど散ってしまった日、髪飾りを握り締めながら薄い布団の中で、未だ現れない人を想って静かに泣いた。

 桜が咲く頃に迎えに来ると言った清一様は、ついに花が全て散ってしまってもわたしの前に現れなかった。