「あぁ、つまり就職先が決まったってこと。最終面接受けてた東京の会社から、今日電話もらったんだよ」

 嬉しそうなお兄ちゃんの言葉に、あたしの頭は一瞬にして真っ白になった。

「東京……? お兄ちゃん、この町出るの!?」

 おめでとうの言葉よりも先に出たあたしの叫び声に、お兄ちゃんが驚いたように瞬きをした。

「あぁ、そのうちな……」
「そのうちって、いつ?」

 言葉を濁して誤魔化そうとするお兄ちゃんに、つかみかかる勢いで必死に訊ねる。

「いつ、って……まだまだだよ」

 お兄ちゃんは苦笑いを浮かべると、ふと足を止めた。
 つられて足を止めたあたしの視線の先には、帰り道の曲がり角にある家の桜の木があった。
 まだ葉も蕾をつけていない裸の桜の木は、冬の木枯らしに吹きさらされてひどく寒そうだった。