「あぁ、ここら辺は四月になっても寒いからな。桜も遅咲きなんだよ」
「遅咲き?」
「満開になって散るのは早くて五月の頭かな。二回も花見ができて、今年はラッキーじゃん」
お兄さんはそう言うと、大きな手のひらをあたしの頭の上にぽんっと無造作にのせた。
「ほら、帰るぞ。まだ夕方は寒いからな」
ぽかんと口を開けたあたしに、お兄さんが手を差し出してくる。
茫然と見ていると、お兄さんが「さぁ、繋げ」とばかりにその手のひらをさらにぐっと突き出してきた。
「やめてください。子どもじゃないんで」
可愛げのない声でそう言うと、お兄さんがゲラゲラと笑った。
「お前が子どもじゃなけりゃ、誰が子どもだよ」
失礼な笑い方にむっとしていたら、お兄さんがほとんど無理やりあたしの手をとった。