「人ん()の庭の桜がそんな珍しいか?」
「これ、桜?」

 びっくりして問い返すと、お兄さんのほうも驚いたような顔をした。

「どっからどう見ても桜だろ。お前、見たことないの?」
「見たことあるよ!あるけど……」
「けど?」

 お兄さんの口調が、あたしをバカにしているような気がしてむっとする。

「あたしが知ってる桜はもっと早くに咲いて、もうとっくに散ってたよ」

 ここに来る前通っていた小学校の通学路にあった、桜の並木道を思い出す。
 あそこの桜は、毎年入学式の少し前に満開になって早々に散ってしまう。
 あたしの入学式のときも、綺麗な薄紅色の花吹雪が新入生を祝福するみたいに盛大に舞っていた。