黒の学ランに身を包んだそのお兄さんの顔には、どこかで見覚えがある。
 その顔を目を凝らしてじっと見て、たっぷり数分は考えて、ようやくお兄さんの正体に思いあたった。

「だいぶ考えたな。俺が誰なのか」
「おばさんちの……」

 ぼそりと答えたら、お兄さんが「正解」と言って口端を引き上げる。

 しばらく考えないとわからなかったけど、彼はあたしがお世話になることに決まった叔母さんのひとり息子だった。
 確か、高校生になったばかりだと聞かされた気がする。

 叔母さんの家に連れて来られた初めの日の夜、お互いに軽く挨拶をした。
 でもそれ以降は、生活時間も生活リズムも違うからか、たまに廊下ですれ違うくらいで、ほとんど交流がなかった。
 それに、お兄さんはあたしとすれ違ってもちらっと顔を見てくるぐらいで、声をかけてきたことがない。

 だからあたしのことなんてどうでもいいか、もしくは見えてないのかな、なんて思っていた。
 でも、確信的に話しかけてきたってことは、あたしの存在は一応きちんと認識されているらしい。