ここに来る前から使っていた、お古の赤いランドセルを背負って、新しい学校での初日を無事過ごしてきたあとの帰り道。
 あたしは叔母の家へと続く曲がり角の一軒家の前でふと足を止めた。

 古い家の外壁の向こうから伸びてきている一本の木の枝。その先に、いくつか薄紅色の小さな花が連なって咲いている。

 見覚えのある花だな。
 そんなことを思ってぼんやり見入っていると、そばを通りかかった人があたしの後ろで立ち止まった。

「どうした? なんか珍しいもんでもあったか?」

 少し低い声が明らかにあたしに向かって問いかけてきたから、驚いて思わず肩がビクついた。

「そんなビクつかなくてもいいだろ」

 振り返ると、思いきり首を反らさないといけないくらい背の高いお兄さんが、苦笑いを浮かべて立っている。