目の前に舞い落ちてくる無数の花びらのせいで、お兄ちゃんの顔がぼやけて歪んで見える。
だけどどうやらそれは、瞳に涙のフィルターがかかっていたせいだったようで。お兄ちゃんをよく見ようと目を凝らすと、あたしの頬に数筋の涙が伝った。
涙で濡れたあたしの頬に、散り落ちた一枚の桜の花びらが張り付く。
「桜の涙みたいだな」
花びらに気がついたお兄ちゃんが、あたしの頬に手を伸ばして薄紅色の涙を拭ってくれる。
それからその手をあたしの頭に置くと、小さな子どもを慰めるみたいに優しく撫でた。
最後まで子ども扱いして……
悔しくて泣き顔のまま上を向いたとき、お兄ちゃんが背を丸めて顔を近づけてきた。
いつもと違うその雰囲気に、瞬間的に瞬きと呼吸を忘れてしまう。
そんなあたしの額に、桜の花びらが舞い落ちてきたような優しさで、お兄ちゃんの唇が静かに触れた。