「お兄ちゃん……」
「おぅ」

 声をかけると、お兄ちゃんがゆっくりと振り返って、いつも通りの笑顔をあたしに見せた。
 その反応があまりにも普通すぎて少し腹がたつ。

「黙って行こうとしないでよ!」

 怒ってそう言ったら、笑顔のお兄ちゃんの眉尻が困ったように垂れた。

「黙ってるつもりはなかったんだけど。言いにくかったんだよ」
「どうして?」

 真っ直ぐにお兄ちゃんを見つめながら、少しずつ距離をつめる。
 手を伸ばせば届く距離まで近づいたとき、お兄ちゃんが困り顔でつぶやいた。

「だってお前、泣くだろ? 俺がいなくなったら」

 その言葉を聞いた瞬間、身体中を電流が通り抜けていくみたいな衝撃が走った。

 大きく目を見開いてお兄ちゃんと向かい合うあたしの頭上に、薄紅色の花びらがひらひらと絶え間なく舞い落ちてくる。