一番近いコンビニに向かって走るあたしを、向かい風が邪魔をする。
目を伏せながら走り続けていると、風にのせられて飛んできた薄紅色の小さな花びらが、あたしの頬をすっと掠めた。
ふと足を止めると、叔母さんの家を出てから少し先にある曲がり角の家の桜が、風に吹かれてはらはらと散り始めていた。
一週間前に満開になった、曲がり角の家の桜。
あの桜がまだ枯れ木だった冬。
「桜が散る頃にこの町を出て行く」と、お兄ちゃんがそんなふうに言っていた。
薄紅色の涙の雫のように、風に吹かれて流れていく桜の花びらをじっと睨む。
まだ、散らないで。まだ。
桜の木を睨みつけると、風に吹かれて流れてくる薄紅色に逆らうように前へと進む。
だけど、桜の木のある家の角を曲がってすぐに、あたしは再び足を止めた。
探していた人が、薄紅色を散らしていく桜の木を見上げて、ぼんやりと立っていたから。