その日、玄関のドアを開けた瞬間に、とてつもない違和感を覚えた。
嫌な予感がして靴箱を開けると、そこにあったはずのお兄ちゃんの靴が全て消えてなくなっていた。
言いようのない焦燥感に襲われて、心拍数が徐々に上がっていく。
慌てて靴を脱ぎ捨てると、あたしは「ただいま」も言わずに二階へと駆け上がった。
きっちりと閉じられているお兄ちゃんの部屋のドアを、一縷の望みを抱きながら勢いよく開く。
その瞬間、視界に飛び込んできた見慣れない風景に、目眩がしそうになった。
部屋の中には、お兄ちゃんがいつも使っていた机やベッドなどの大型家具がそのまま置いてある。
けれど、今朝あたしが家を出るときにはそこにあった、お兄ちゃんの衣類、本、雑貨やゲーム機。
いつも通りそこにあって、いつも通り乱雑に散らばっていたそれらが、部屋から全てごっそりと消えてなくなっていて。そこで生活していたはずのお兄ちゃんの気配そのものが、完全に消え失せていた。