そのままたっぷり五分くらい魂が抜けたかのようにボーっとして、それからやっと動けるようになる。

 別に、須藤さんは私の彼氏でも何でもないんだけどね! そんな慰めさえも、自分を追い込む痛みになる。

 作りすぎるはずだった肉じゃがは、予定通り作りすぎることにしよう。でも食べるのは私一人だ。

 先ほどの出来事を思い出しながら野菜を切っていく。包丁を持つ手に力が入った。いつもは固くて切りづらいジャガイモを、いとも容易く一刀両断する。今なら人の四肢くらいは斬れそうだ。

 誰だよ。その女は誰なんだ。そして須藤さんは私のことをどう思ってるんだ。この前の「天乃宮さんの旦那さんになる人は幸せなんだろうな」って言った後に見せた意味深な微笑みは何だったんだよ。

 そんな感じの独り言を脳内で延々とリピートしながら、須藤さんの部屋がある方向に負の念を送りつつ、材料を入れて火にかけた鍋を見つめる。

 ぐつぐつ。ぐつぐつ。これは肉じゃがが煮えている音だろうか。それとも私の心から湧き上がってくる憎しみの音だろうか。

 うん、美味しい。とても美味しい。
 神様なんかいない。もう彼氏なんていらない。一生独りで生きていく。

 結婚式で、幸せな二人が神父さんの前で永遠の愛を誓うように、私は食べ終えた肉じゃがの皿の前で、永遠の孤独を誓った。