「ねえ暑いよー。早く中入ろうよ、ひとしー」
女はちょんちょんと、須藤さんの服の裾をつまみながら、甘えた声を出す。下の名前を呼び捨て……だと⁉
「ん、ああ。じゃ、そういうことだから。またね、天乃宮さん」
須藤さんが自分の部屋の鍵を回し、ドアを開けると
「お邪魔しまーす」
女はそう言って、彼の家に上がり込む。
何のためらいもなく部屋に⁉ 私だって、玄関までしか上がったことないのに!
「こら、みゆき! ベッドにダイブするな!」
彼がそう言いながら、続いて家に入っていく。
何がみゆきだよ! 深い雪か? 未来の幸せか? いや、お前なんか魑魅魍魎の魅に醤油の油に寄生虫の寄で十分だ!
「わぁ、ふかふかぁー」という魅油寄(仮)の甘ったるい声が聞こえた。
こんちくしょう! 今すぐベッドの反発係数が無限大になって天井突き破って星屑になりやがれ!
私も、落とした袋を拾ってすぐに家に入った。
冷房もつけないまま、蒸し暑い部屋に立ちすくむ。
好みのタイプ。気になるアイツ。すでに彼女がいただなんて。
呆然自失。ここは自室。すごく胸が痛む何で? チェケラ。
今の気持ちをラップで表現してみても、心の傷は癒えないし何も面白くない。