ところが、夜の七時になっても世界は平和なままだった。行方不明者急増というようなニュースも聞いていない。
「ねえ、いつになったら私より幸せな人間は消えるの?」
ベッドに寝転がりながら少女に聞く。彼女は、最初に見たときからまったく動いていない。
「うーん。もうすぐ……ですかね」
少女は淡々と告げた。
「もうすぐ……」
一気に、人口が減少する。人類絶滅へのカウントダウンは、すでに始まっている。
やっぱり、みんな消えるのは嫌だなぁ。一人遊園地のために貯めておいた有休はまだ使っていないし、望に貸した千円は返ってきてない。
私自身も、まだまだやり残したことはたくさんある。
狭い歩道を手をつないで歩くカップルの真ん中を突っ切りたいし、デート中の見知らぬカップルに「あれ、この前と別の男と一緒なんだ」って言ってみたい。
そんなことを考えていると、間の抜けた音が鳴った。インターホンだ。
誰だろうか。
ベッドから起き上がりモニターを見ると、そこには須藤さんが映っていた。心臓が大きく跳ねる。
いまさら何をしに来たのだろう。私とのヨリを戻そうと思っているのかもしれないが、そんな都合のいい話があると思っているのだろうか。うむ、ある。おおいに結構。うはうは。
私たちが付き合っていた事実なんてどこにもないことは置いておく。
「あんた、絶対に玄関に出て来な――」
これから世界を滅亡させる予定の自称神に言ったつもりだったが、彼女は跡形もなく消えていた。
どこへ行ったのだろう。部屋にはいない。トイレと風呂場もチェックしたけど、少女の姿は見当たらなかった。