「悪徳業者か! この日本にはね、クーリングオフ制度ってものがあるのよ!」
 さっきのやり取りが契約かと言われると微妙だし、適用されないような気もするけど。言うだけ言ってみよう。

「え? くりーん……おふせーど? そういう難しいことは知らないんです。ごめんなさい」

「米国市場の株価急落を予ちょ――」
「ヒンデンブルグオーメン」

「はい正解! ずいぶん都合よく偏った知識をお持ちなんですねっ!」
 嘘だろ! クーリングオフ知らないの嘘だろ!

「はぁ。どうしよう」

「そんな、絶対にスペック勝ってると思ってた友達に山下智久似で優しそうでお金持ってそうな彼氏ができたのを知ったときみたいな顔してどうしたんですか?」
 なんでそんな具体的なんだよ!

「まさか、職場のトイレで個室に入ってるときに偶然、あの先輩まあまあ美人なのに彼氏がいないってことは性格に問題があるんだろうね、っていう自分の悪口でも聞いてしまったんですか?」
 リアリティがあってそれがまた腹立つ。

「全部あんたのせいだから!」

「いやぁ、そんな。可愛いだなんて」
「言ってねーよ!」

 でも、よく考えてみれば失うものなんて何もないのかもしれない。

 私は人類の救済を諦めた。昨日、恋を諦めたように。

 このろくでもない世界は、期待すればするだけ絶望を味わうことになるのだ。
 私なんて、どうせ独身のまま死ぬんだし。夢も目標も特にない。

 それなら、世界がどうなろうと関係ないのではないか。
 うん、そうだよね。

 最後に美味しいラーメンでも食べに行こうかな。
 いや、どうせ私以外みんな消えるんだから、その後にじっくりといただこう。