「うん。まあいいや。それで、何しに来たの?」
 受け入れがたいことからは目を背けて、質問を変える。

「あなたの願い事を一つ叶えてあげる」
 あー。この子ヤバいやつだ。本格的に。えーと、警察? それとも救急車?

「あなたの願い事を一つ叶えてあげる」
 とりあえず見た感じ怪我とかはなさそうだし。病院行くとしても頭の病院かなー。

「あなたの願い事を一つ叶えてあげる」
 窓ガラスの修理もしなきゃ。まずは大家さんに連絡して……。修理費はどっかから出るのかな。

「あなたの願い事を一つ叶えてあげる」

「だー! もう、うるっさい! あんたはRPGの序盤で『魔王を倒してくれるかな?』って質問をプレーヤーが『はい』を選ぶまで延々と繰り返す村の長老か⁉ それとも壊れかけのレディオか⁉」

「あなたの願い事を一つ叶えてあげる」
 無表情を貫いて、少女はなおも繰り返す。まともに相手しても無駄だ。

 私は頭を抱えて、苛立ちを二酸化炭素に乗せてゆっくりと吐き出す。

「ああはいはい。わかったわかった」

 昨日のことがあったからだろう。それは、あまり考えずに口をついて出た答えだった。

「私より幸せな人間を、全員消してください。これでよろしい?」

 迷いもためらいもなかったし、言ってから後悔もしなかった。むしろ最適解なのではないか。

 私よりも幸せな人間を全員消す。

 狙っていた男が、別の女を自宅に連れ込んでいるシーンを目撃した。
 そんな今の私の状況に、これ以上ないくらいに適切な願いだと思う。

「その願い、たしかに承りました」
 可愛らしい声で答えて、少女は笑った。
 もちろん、私の願いは冗談だったし、少女の言っていることも冗談だと思った。