「私は、理事長のおかげでそうならずにすみました」
そういう仕事を誇りを持ってやっている人もいるだろう。でも私は、全然そうではなかった。
「ああ。よく逃げのびたな。お前は強いおなごだ」
土方さんは、また私の頭をなでた。今度は、優しい力加減だった。
「強くなんてありません。未だに、借金という単語を聞くだけで怖いし、お酒の匂いに吐き気がします」
「奇遇だな。俺も下戸だ」
頭を撫でた手が、卓袱台に置いた私の手をそっと包む。
「私は土方さんみたいになりたかった。自分で自分の道を切り拓くことが、私にはできなかった」
進学せず、母に離婚してもらい、母娘で支え合いながら暮らしていたら。ううん、そもそもあの再婚に反対していたら。
後悔が大波のように押し寄せ、理性を押し流していく。
気づけば、私は泣いていた。ひと粒、またひと粒、頬を雫が流れていく。
「周りに流されるんじゃなく、自分で考えて、信じた道を進むべきだった」