ふざけるな、ふざけるな、ふざけるな。

 どうしてあんなアル中オヤジが生きていて、お母さんが死ななきゃいけなかったの。

 この世の中、どうかしてる。真面目に生きている方が、ちゃらんぽらんな人より損をしている。

 とにかく、走って走って走り続けた。今にも怖いおじさんたちに捕まるのではないかと、気が気ではなかった。

 どれくらい走っただろう。とうとう私は疲労の限界を超え、脱水症状を起こし、路上で昏倒してしまった。

 目を覚ましたら、理事長がいた。そのときは、彼女が及川学園の理事長だなんて知らなかったから、優しそうなご婦人だとしか思わなかった。

 私は幸運にも、理事長の自宅の近くで倒れていたのだと、後で知った。

 事情を聞いた理事長は、私を保護してくれた。体が回復するまで自宅に置いてくれ、やがて寮で働かせてもらうことになった。

 理事長が弁護士を立ててくれ、今は父の戸籍から抜けている。その後、父は行方がわからなくなっているらしい。

 長い話を聞き終え、土方さんは腕を組んで唸った。

「いつの時代も同じような親がいるもんだ」

 昔から、お金がなくて娘を花街に売る親はたくさんいたらしい。そうして遊女になった娘たちは、借金を返すまで花街から出られなかったとか。

 太夫くらいの売れっ子になれば、お店に大金を払ったお金持ちの奥方になるということもあった。それはごく一部の者で、一生郭から出られない娘がほとんどだったという。