質素なお葬式を済ませて母の通帳を見ると、ほとんど残高がなかった。ひとりで父と私を養い、大学の試験代や入学費用、授業料を払っていたのだ。残っているわけがなかった。私は大学を辞めざるを得なくなった。

 さらに悪いことに、母の四十九日も済まないうちに、父の多額の借金が発覚した。彼は母の貯金もないことを知ると、怒り狂った。「お前が進学さえしなければ、もっとお金が残ったのに」と。

 理不尽な怒りだったので、傷つきはしなかった。代わりに言い返した。「あんたが働かないからじゃないか、だからお母さんは苦労して死んだ」って。

 私たちは数日間口をきかなかった。するといきなり、父がいないときに、自宅のアパートに怖いおじさんたちが踏み込んできた。

 借金のカタに、お前は売られたんだよ。

 彼らはそう言った。私は父の借金を返すため、風俗で働くことを勝手に決められていた。

 男たちの手が、私をとらえた。アパートから引きずり出され、階段を降りる途中で、無茶苦茶に暴れた。怖いおじさんが足を滑らせ、ひとり転んだ。その隙に、私は逃げ出した。

 靴さえ履かせてもらえなかった裸足の裏が、痛かった。それでも私は、全力で走った。