「私も親の借金が原因で、ここにいるんです」

 土方さんは相槌を打たず、静かに次の言葉を待っている。

「まず、本当の両親は私が五歳のときに離婚しました」

 理由がなんだったのかは知らないけど、もう結婚生活は続けられないという結論になったのだろう。

 私は母に引き取られた。生活は苦しかったけど、穏やかな日々を過ごしていた。

 やがて中学生になると、母が彼氏とやらを連れてきた。その人は優しかったし、再婚すると言ったときも特に反対はしなかった。

 それが、間違いだった。

 新しい父親は、仕事がうまくいかないとお酒を大量に飲んだ。それが何年も続き、私が高校生のときには立派なアルコール依存症になっていた。弱い人だったのだ。

 当然まともな仕事もできず、ただお酒を飲んでは家で寝転んでいた。

 母は正社員として懸命に働き、「女に学歴はいらない」と時代錯誤なことを言う父を無視し、私を大学に進学させてくれた。

 学校でも周りはほとんど進学を希望していたので、私もそうするのが自然とばかりに、進学した。あまり、先のことは考えていなかった。母さえいればどうにかなると思っていた。

 けれど、無理を重ねた母の体は、本人も知らない間に病魔に蝕まれていた。ある日健康診断で異常が見つかり、精密検査の結果胃癌だとわかり、治療の甲斐もなく二カ月後に亡くなった。