「もうこんな時間か」
気まずい沈黙を破ったのは、土方さんだった。壁掛け時計を見て、沖田くんは腰を上げた。
「ごめん、美晴。答えたくないなら答えなくていいよ。色々あったんだね」
「う、うん……」
「じゃ、おやすみなさい」
珍しく神妙な顔をした沖田くんは、空になったポテトチップスの袋をゴミ箱に捨て、部屋を出ていった。私のことを思いやってくれたんだろう。
「じゃ、じゃあ私も」
あとに残された私も、慌てて立ち上がろうとした。すると、手首を柔く握られ、捕まえられた。
見ると、土方さんの手が、私の手を掴んでいた。
「俺は知りたい。美晴がどうしてここにいるのか」
「え……」
「こうして出会ったのもなにかの縁だ。俺はどうせ根無し草のような存在。話して楽になるなら話せ。嫌なら無理にとは言わない」
落ち着いた声に、緊張が溶かされていく。私は浮かせかけた腰を、再び座布団に下ろした。
寮生に自分の不幸自慢をするわけにはいかない。けど、土方さんなら……。
「湊くんのご両親が夜逃げしたってことを思い出してから、動悸が止まらなくて」
実は背中もしっとりと汗で濡れている。私は深く呼吸をしてから、ゆっくりと口を開いた。