夕食を済ませたあと、私は浅葱色の羽織が飾られた土方さんの部屋にいた。しかし当然、ふたりきりではない。沖田くんもいる。

「湊? ああ、同じ学年です。あいつは両親が借金で首が回らなくなって、夜逃げしてしまったんじゃなかったかな」

 借金と聞いた途端、胸がドクンと嫌な音を立て、誤作動を起こし始めたように感じた。

 そうだった。ご両親は行方不明になってしまったんだった。湊くんは差し押さえられた家でひとりぼっちで呆然としているところを保護されたんだ。その姿を想像するだけで胸が痛む。

 沖田くんは自分で持ってきたポテトチップスをつまんでいる。

 寮母は寮生を特別扱いしてはいけないが、沖田くんは勝手に土方さんの部屋に来ては、昔話をしたり、現代の文明を教えたりしているらしい。

「子を置いて夜逃げか」

「一家心中よりはいいと思いますよ」

 不穏な単語ばかりの会話に、余計に心が重くなる。

「湊も心配だが、総司はどうするんだ。今後のこと」

 土方さんに聞かれて、沖田くんは口の中にあったものを飲み込んで答えた。

「僕は就職します。勉強は好きじゃないし、無理してまで学びたいことも特にないんで」

 けろりとした顔の沖田くん。湊くんも、これくらい割り切れたら楽だろうに。

「そういえば、美晴はどうして寮母になったんだっけ。僕が入学したときにはもういたよね?」

 悪気のない顔で聞かれて、ギクッとした。私も、沖田くんみたいにさらっと答えればいい。なのに、口から言葉が出てこない。