「そっか……」
かくいう私も大学中退という苦い過去を持つ。自分ではどうにもならず、仕方なく就職した。なんとかしてあげたいが、専門家じゃないのでどうアドバイスしたらいいかわからない。
「正直、僕だってなにが正解かわからない。就職した方が、とりあえず安心できることはわかってる。だけど、厳しいってわかっていても、まだ勉強したいことがある」
心の中で、何度も葛藤してきたのだろう。不安を吐露した湊くんの肩を、土方さんが優しく叩いた。
「男がそう簡単に諦めるんじゃねえ。人生、いつ何があるかわからねえからな」
土方さんは、彼の前の椅子に座って話しだす。
「俺は農家の十人兄弟の末っ子に生まれて、六歳で母を亡くし、十四で奉公に出された」
「えっ!」
湊くんが顔を上げた。大きな目を見開いている。
うん、令和の時代に十四で奉公なんて聞いたらビックリするよね。
「それから働きどおしで、学校なんてもんに行ったことはねえ」
「中学から……」
「二十歳過ぎて実家に帰ってからは、薬を売り歩いた」
「中卒で製薬会社営業に転職⁉」
いやあの……違うよ、それ。土方さんの実家が作っていた薬の行商をしていたんだよ。
湊くんにいちいち解説した方がいいのか悩む。