そうだったのか。それは初耳だ。
「それなら、今後は職員が定期的に見回りに行こう」
土方さんが口添えしてくれた。彼が見回ってくれれば、冷やかす輩はいなくなるだろう。
「ありがとうございます。でも……もう必要なくなるかも」
「どういうこと?」
湊くんの顔が翳った。なにか悩んでいるみたいだ。
「進路指導の小野先生に、進学は無理だって言われて。就職した方がいいのかなって」
少ない言葉だけど、だいたい状況は飲みこめた。
寮生は家庭と絶縁状態にある子が多く、進学費用が賄えないことがほとんど。さすがの理事長もそこまで援助はできないし、奨学金を借りるとしても、それだけでは足りない。
安い寮がある大学に行き、アルバイトを必死でやって卒業したという子もいるが、ごく少数だ。体調を崩してアルバイトできず、学費が払えなくなり、途中でドロップアウトしたという切ない話もあるらしい。
だから寮生は、学園に斡旋された企業に就職する子がほとんどだ。
「無理って、費用のことで? それとも学力?」
「両方。僕は進学したいけど、塾にも行けないし、お金もないし、だから先生も最初から相手にしてくれなくて」
学生寮や奨学金制度を利用できる進学先がないか相談してみようと思ったが、学園の進路指導担当教師に冷たくあしらわれたという。