帰り道の途中で、寮長から連絡があった。細々とした備品を買ってきてほしいと言われ、了承した。

 私と土方さんはいつも買い出しに行く大型スーパーに寄り、買い物を済ませた。

「あのじじい、意外に人使いが荒い」

 両手いっぱいに荷物を持ち、土方さんが渋面を作る。腕時計を確認すると、もうすぐ寮生が帰ってくる時間になっていた。

「まあまあ、ついでですから……ん?」

 出口に向かう途中で立ち止まる。フードコートで、見覚えのある制服の男の子が、テーブルに教科書を広げていた。

「あの子、寮生です」

「寄り道か」

 寮では寄り道禁止となっている。しかし、彼はひとりきり。誰かと遊ぶために立ち寄ったわけではなさそうだ。

 以前だったら、見なかったフリをしたかもしれない。でも私は寮生の母親代わりだ。

勇気を出した私は、彼にそっと近づき、声をかけた。

「湊くん」

 ビクッと肩を震わせた彼が、顔を上げた。清潔感のある黒髪が揺れる。

「美晴さん」

「勉強してるの?」

 いきなり寄り道を責めることはしない。なにか事情があるのかも。

 穏やかに尋ねると、怯えていたような湊くんの表情が和らいだ。

「うん、宿題。同室の人がうるさくて、寮じゃできなくて。寄り道してごめんなさい」

「ううん、そういうことなら謝らないで。でも宿題なら、自習室があるじゃない」

「あそこも、いると冷やかされたりからかわれたりして……」