「あっ、ちょっと!」
「丸顔の おなごが食べる ぱんけえき」
土方さんがそのまま投稿しようとするので、必死でスマホをつかんで止めた。
「なにゆえ邪魔をする」
「こんなブスを全世界に発信しないで!」
しかも何気に丸顔とか言うし。パンケーキの丸さと丸顔をかけられた。ひどい。
「ブス? 醜女のことか?」
「しこ……多分そうです」
「なにを言ってやがる。お前はいい顔をしているぜ。世が世なら天神にくらいなれただろう」
土方さんは「しかし、それほど嫌がるなら仕方なし」と、投稿をとりやめてくれた。助かった。
私は煽られた鼓動を落ち着けようと、アイスティーを一気飲みした。
いい顔、か。天神ってなんだろう。スマホで調べると、遊女の位のことだった。最上位が太夫。そこまではいけなかったか。
SNSや私の見た目のことから興味をそらしたくて、必死にほかの話題をさがす。
「ええと、そうだ。幕末では、男女が出かけるときってどこに行くんですか?」
「昔は結婚前にふたりで出歩くことなんて、ほぼなかった」
「へえ」
「見合いも、芝居小屋で遠くの席からお互いをちらっと見るだけだ」