「なあに、まるでケンカをするなって言ってるんじゃねえ。くだらねえケンカをするなってことさ。自分の誇りや信じるものを守るためなら、いくらでも戦っていいんだ」

「誇り……」

 そんなもの、この子たちにあるのだろうか。

「誰にでも誇りはあるはずだ。自分で自分を哀れなやつにするんじゃねえぞ」

 ふと気づかされる。

 行き場を失った寮生たちにあるのは、諦念と自己嫌悪、恨みや僻みや嫉みばかりだと思っていた。

 だから、寮の中では安心して日々を暮らしてほしいと。

 彼らに矜持を持たせることなど、考えたことがなかったかもしれない。

 この寮規は、「誇りを持って生きろ」と書いてあるのだ。

「土方さんは、どうしようもない僕たちをまとめてくれるよ、きっと」

 沖田くんが誇らしげに囁いた。彼は土方さんに心酔しているように見える。

 浪人の集まりだった新選組を、時代に名を遺す政治組織に仕立て上げた土方さんなら、もしかしたら。もっとこの寮を、いい方に変えていけるのかもしれない。

 言い表しようのない期待と不安が、穏やかな波のように胸に押しては引いていった。