こうしてできた作品は、これまた余っていた額に入れられ、翌日の朝、食堂の壁に飾られた。
突然現れたものものしい文字に、寮生はざわついた。
「なんだこれ……まず漢字が読めねえ」
額の中の文字は、漢字とカタカナで書いてある。戦前の尋常小学校の教科書のようだ。
「情けないなあ。ようし、僕が読んであげるよ」
額の中の文字を、颯爽と現れた沖田くんが読み上げる。
「おっほん。一、寮を脱するを許さず」
脱走するなってことよね。それは元々の規則にある。
一番後ろで見ていたら、いつの間にか土方さんが隣にいた。満足げに腕を組んで額を見ている。
「一、勝手に金策いたすべからず」
「寮生同士での金の貸し借りを禁ずる。同意の上でも、後のいざこざが起きるのを防ぐためだ」
沖田くんが読み上げたあとで、土方さんが説明を加えた。彼の存在に気づいた寮生が振り向き、顔をこわばらせた。身に覚えがあるのかもしれない。たとえば、誰かから無理にお金を巻き上げたとか。
次は土方さん自身がよく通る声で読み上げた。
「一、勝手に訴訟取り扱うべからず。寮生どうしのもめごとが解決できねえときは、勝手に外部の人間を巻き込むんじゃねえ。まず俺が裁く」