男兄弟がいないからよくわからないけど。女子でも反抗期は親がウザかったりするから、そういう類のものかな。

「母親に男の影がよぎって焦ったんだろ。おっかさんを取られたくなくて、構ってほしくて、ああいうことを言うんだ」

 ということは、私はしっかり寮生の母代わりになれているってこと? それならうれしいような気もするけど。

「うん、そういうもんだと思う。幼稚園とか保育園で見たことない? ふとした瞬間に、先生のこと『お母さん』って呼んじゃう男子」

 沖田くんがクスクス笑いを漏らす。

「いるかも……」

 土方さんもふっと微笑む。一部始終を見ていたパートのおばさんも笑っていた。

 いや、笑い方が違う。ニヤニヤといった感じで、私と土方さんを交互に見ている。

「ねえ、美晴ちゃんとトシさんって本当にそういう関係なの?」

「そんなわけないでしょう!」

 全力で否定した。

「おばちゃんも他に楽しいことねえのか」

「あるわけないでしょ。自分になんにもないから、若い子の恋愛話を聞きたくてたまらないんだよ~」

「ははは、しょうがねえなあ。でも俺と美晴の間にはなにもねえよ」

 冗談を言うおばさんに、笑って返す土方さん。ピリピリしていた沖田くんも、ホッとしたような顔をしていた。

 そう、なにもないんだからね。なにも。

 胸の奥がちくりと痛んだ気がしたけど、感じなかったフリをした。