加瀬くんが掴みかかろうとした瞬間、土方さんはその場から姿を消した。と思ったら、いつの間にか加瀬くんの後ろに回り込んでいた。

 振り向いた加瀬くんが、土方さんの顎に向けて腕を振り上げる。が、土方さんはまたも身軽に彼の背中に回り込む。

 土方さんが動こうとした加瀬くんの腕を背後から掴んだ。加瀬くんは咄嗟に振りほどこうとするが、土方さんはびくともしない。

 すごい。動きが早すぎて見えなかった。

「美晴に謝れ」

 ぐりんと加瀬くんの体が反転したかと思うと、びたんと床に沈んだ。なにをどうやったのか、土方さんが加瀬くんの腕を捻りあげ、その背中に乗っていた。

「いてててててて! やめろ、この! 訴えるぞ!」

「できるもんならやってみな!」

 土方さんには、令和の時代で失うものもなければ怖いものもないようだ。不逞浪士の捕縛に慣れている土方さんの力の前で、加瀬くんは、なんの抵抗もできなかった。

「いてててっ。あーあーあー俺が悪かったよ! これでいいだろっ」

 全然心はこもっていなさそうだけど、一応謝った加瀬くん。土方さんはパッと手を離し、彼を解放してやった。

「よし、今日のところは勘弁してやる。その代わり、今度美晴を侮辱したら、仕置きだからな」

 肩を押さえ呻く加瀬くんの前に回り、彼の顎をクイと上げた土方さんが、残酷なほど妖艶に微笑む。