「なんだと? 俺が十五以下に見えるってのか、ああ⁉」

 カウンター越しにすごまれて、私は固まった。立場上毅然とした態度をとらなければいけないので、恐怖を感じても表情に出さないように気をつける。

「ガキじゃねえか。他人をからかう以外に楽しいことがねえんだから」

「は?」

「他人を貶めるやつは、自分の現状に満足していないやつだ。本当に幸せな者は、他人を虐げたりしない」

 土方さんは柴犬エプロンを着けたまま、カウンターの外に出た。加瀬くんたちは、にじにじと後ずさりした。

「親元を離れなきゃいけない事情があったから、なんだ。自分たちは可哀想だから、他人を虐める権利くらいはあると思っているのか」

「なんだと」

「ねえんだよ、そんなもん。同情されたくなきゃ、そういう育ちを疑われるような誹謗中傷はやめるこった」

 加瀬くんたちはブルブルと震えていた。真っ赤に染まった頬、つり上がった眉。

 図星を指されたから、怒りが湧くのだろう。

「土方さん」

 寮生の一番触れてほしくない部分に、土足で踏み込もうとする土方さん。

 もうやめて。これ以上彼らを刺激してはいけない。

 土方さんはちらっと私の方を振り返った。目が合った瞬間、なにも言えなくなる。