真ん中に立っていた、一番背が高いパーマ頭の寮生──加瀬くんという名前の派手なタイプで他の寮生にも恐れられている存在だ──に沖田くんが声をかけられた。

「んーん。職員さんに挨拶してただけですよ」

 沖田くんは素っ気なく答える。彼は頭に血がのぼるタイプではない。

「お前、どう思う? いい大人の男がこんなところで調理しててさ。こんな仕事しかできないのかね?」

 明らかに土方さんをバカにした口調だった。

 ひどい。調理だって掃除だっていいじゃない。一般企業に勤めるのがそんなに偉いの?

 この寮で働く私たちがいるからこそ、あなたたちが快適な暮らしをできるんじゃない。自分ではなにひとつできないくせに。

 言い返してやりたかったけど、顔が熱くなるだけで言葉は出なかった。

『寮生になにを言われても、感情的に言い返して刺激してはいけない。話をゆっくり聞いて、寄り添ってあげなさい。あなたは寮生の母となるのです』

 最初にここに来たときの理事長の言葉が脳裏によみがえる。

「色々事情があるみたいですよ。ここにいるってことは、そういうことでしょ。俺たちと一緒です」

 沖田くんがさらっと返すので、私は怒りを忘れてどきりとした。彼の言葉が、余計に加瀬くんたちを煽るのではないかと思ったからだ。