誰がなにを言っても、寮生たちはどこ吹く風。このまま卒業して大丈夫なのだろうかと心配になる。

「そういえば、土方くんはよくやってくれているね。記憶喪失なんて気の毒だ」

「は、はあ」

 波多野さんは台風の日に、寮長と一緒に土方さんを運んでくれた。あの日の土方さんのコスプレ姿について、「土方くんは事件に巻き込まれておかしな格好で放り出されたんじゃないかな。身元を隠すために」と、ミステリー作家もビックリの推測をしていた。

 なにはともあれ、こうして職員たちに受け入れられているのは、土方さんの努力の賜物だろう。

「しかし、彼も男だ。同じ住み込みどうし、間違いがあってはいけない。気をつけてね」

 波多野さんが神妙な顔で言うので、食材の発注をしようとしていた私は動揺してしまった。

「ま、間違いなんて起きませんから!」

 土方さんが私を襲ったりすると言うのか。ありえない。

 しかし、男女が隣り合った部屋で生活すると聞けば、そういう想像をする者もいるのだろう。しかもここにいるのは、年頃の男子ばかり。

 変に疑われないよう、言動には一層注意することに決めた。