「なにかあったのか。言ってみろ。力になる」
真剣な声音。自分の立場もつらいのに、私を思いやってくれるなんて。
本当に苦しんで泣いていたなら、一瞬でほだされてしまいそうだが、言えない。土方さんや沖田総司の最期を想像して泣いていたなんて。
「大丈夫です。漫画を読んでいたら感動してしまって」
「漫画?」
「ええと……絵草紙みたいな?」
顔を上げると、土方さんは「ふむ」と頷いた。
「草紙もいいが、明日も早い。キリを付けて寝ろよ」
と言いながら、彼はウォーターサーバーから水を汲んで飲んだ。
「土方さんはどうしてここに?」
「ああ……眠れなくてな」
空いた紙コップをゴミ箱に放る彼がどんな表情をしているか、薄暗くてよく見えなかった。
「なにか考え事でも?」
椅子から立ち上がった私を、土方さんが見下ろした。眉が下がっている。
しまった、愚問だった。彼が今、明るい将来を思い描いているわけはないのだ。
「まあな。組の方はどうなっているだろうと思って」
幕末の新選組が、土方さんがいなくなってどうなっているのだろうということか。
「副長がいなくなったら、みんな血眼で探しているでしょうね」
「はは。近藤さん、焦っているだろうなあ。俺がいないと、荒くれ者どもが調子に乗っていけねえ」