私はふらふらと食堂へ向かった。食堂には、厨房に入らずとも、いつでも寮生が水を飲めるようにウォーターサーバーが置いてある。

 食堂の椅子に座って水を飲み、ふうと息をつく。食堂は非常灯が点いているだけで、暗く寂しい。

 沖田くんは、幕末の沖田総司が死んだあとの歴史も知っているらしい。彼が死んだのは二十五歳。鳥羽伏見の戦いのあと。

 たしか、『土方さんも残念でしたね。最後は陸軍奉行並にまで──』と言っていた。ということは、新選組完全降伏までの歴史を知っているということだ。過去の記憶を整理するために勉強したのかな。

 沖田くんも、辛い記憶を背負って生きてきたんだな。若くして肺結核で亡くなるなんて、どれだけ苦しかっただろう。

「う……」

 いけない、涙がぶり返してきた。唇を噛んで耐えていると、ふと背後に気配を感じた。

「なにしてんだ」

「わああっ!」

 呼びかけられて、驚いた。手から飛んだ紙コップが床に転がる。

 振り返ると、そこにはスウェット姿の土方さんが。

 彼曰く、寛ぐときはスウェットがいいそうだ。

「ん? 泣いているのか」

「いやっ、これはそのっ」

 しまった。暗いとはいえ、ここは非常灯の真下。涙が反射したのか、自分でも思っているより瞼が腫れているのか。とにかく急いで涙を拭って下を向いた。