にこりと笑う沖田くんの顔には、なんの屈託もない。つられるように、土方さんも微笑した。
「そうか。なんだかよくわからねえけど、こっちでもよろしくな、総司」
「はい! 困ったことがあったら、なんでも言ってくださいね」
沖田くんは力強く、土方さんの手を握った。
よかった。こんなに頼れる味方ができて、土方さんの寂しさもさぞ癒されることだろう。
「それはそうと、お前のおっかさんは? どうしてこのようなところで暮らしている」
土方さんには、ここは親元を離れた高校生が暮らす寮だとだけ言ってある。
不思議そうに尋ねた彼に、沖田くんはあっけらかんと答えた。
「ああ、それがね、笑えないんですよ。実家がすっごく貧乏で、両親とも早く死んでしまって。姉さんが育ててくれたんですけど、この度めでたく結婚して。新婚さんの家に居候するのもどうかなと思って、この寮に入ったんです」
私は沖田くんの身の上を知っている。寮母は寮生のプロフィールを知っておく義務があるからだ。
しかしなにも知らなかった土方さんは、沖田くんの言葉に驚いて目を剥いた。
「なんだと。それじゃほぼ前世と一緒じゃねえか」
そうなの? スマホで沖田総司を調べてみると、なるほど、同じような人生を辿っていることがわかった。
一応武家だけど超貧乏な沖田家の長男として生まれた沖田総司は、姉が婿を迎えたので家を継ぐ必要がなくなった。
「そうなんです。でも僕はまだいい方ですよ。ここには、もっと、色んな事情があるやつらばかりですから」
土方さんが首を傾げる。沖田くんは私の方をちらと見た。