私が土方さんの心細さに付け込んで、彼女になるような手練れに見えますか? 

「ないない。私は助けた人、土方さんは助けられた人。それ以上でも以下でもない。OK?」

 私は全力で沖田くんの想像を否定した。沖田くんは安堵したように見えた。

 自慢じゃないけど、生まれてからずっと、恋愛に縁がなかった。

 人付き合いが苦手な私は、男性と出会えるような場所に行ったことがない。

 学生時代も、知らない相手に話しかけられると緊張で挙動不審になってしまった。だから「話しかけないでオーラ」が出ていたのだろう。限られた少数の女子と話す程度で、学生生活を終えた。

 そんな私が、いくら素敵な人が現れたからって、いきなり誘惑とか駆け引きとか、できるわけがない。

「美晴はおっかさんのように、世話を焼いてくれただけだ。俺としては惚れてもらっても一向に構わないが」

 おっかさん発言で落としておいて、後半一気に私の心を掴みにくる土方さん。

「あのね、そういう発言は」

 寮生の前で職員同士の恋愛話なんてしちゃいけない。抗議しようとした私の頭に、ぽんと大きな手が乗った。

「こいつは優しいおなごだ」

 おなご……。とっても違和感があるけど、なんだか温かい気持ちにもなる。

 ほんわかした私は、抗議をやめておとなしくなった。

「それより総司、お前のことを聞かせてくれ。お前は、俺が一緒に過ごした沖田総司じゃねえんだよな」

 頭の手を離され、我に返った。沖田くんは真面目な顔で首肯する。