「聞いて、沖田くん。この人はおそらくあなたの知っている土方歳三だけれども、転生したわけではないの」

 私が声をひそめたので、沖田くんも口を閉じ、顔を近づけてきた。

「幕末から、タイムスリップしてきちゃったの」

 耳打ちすると、沖田くんは大きな目を見開き、「ええっ⁉」と叫んだ。

「だから、盛大なネタバレはダメ!」

 もし、土方さんが幕末に帰れることがあるとしたら。

 今後の人生や戦争のことを知ってしまうのは、絶対によくない。それを幕末に持ち込んだら、歴史が変わってしまうかも。

 私も最初、彼が本物の土方歳三だなんて思わなかったから、幕府が潰れたことを教えてしまった。かなり後悔している。

 沖田くんは両手で口を塞いだ。自分がとんでもないことをしでかしそうになったことを、理解してもらえたらしい。

「う、うん、わかった。ごめんね美晴」

「とにかくご飯を食べて学校に行って。帰ってから、指導室に来てちょうだい」

 ゆっくり話をさせてあげたいけど、まず沖田くんを遅刻させずに学校に向かわせなければならない。

「なんだ、ネタバレって」

「いやほら……ここで話しちゃダメなこともあるでしょ。沖田くんは現代の高校生で、学校へ行かければならないので、話は後にしましょう」

「なるほど」

 土方さんは不満げだったけど、「またあとでな、総司」と声をかけるだけにとどまった。

 やっと自分のことを知っている人物に出会えたのだ。もっと話させてあげたいけど、今はこらえてもらうしかない。

彼は今までどれだけ心細かっただろう。一切口にはしなかったけど、本当は孤独でしかたなかったはずだ。だけど、やっと心を許せる人に会えた。それは私じゃなくて、沖田くんなんだ。

 返却された食器を寂しそうに洗う土方さんを見て、心が痛んだ。

 彼はこの現代で、ひとりぼっちなのだ。