停電していないということは、思ったほど至近距離で落ちたわけでもないのかな?
ホッとして立ち上がると、廊下の窓から、裏庭を人が通るのが見えた。
寮生かと思い、窓に近づいて確認しようとしたが、滝のように強くなった雨が窓ガラスを濡らし、外が見えない。風は荒れ狂い、窓を小刻みに揺らす。
「もう、こんなときに誰が外にいるの!」
玄関に向かうと、扉は施錠したままになっていた。こんな時に寄り道して、締め出されてしまった寮生がいるのかもしれない。
因果応報。だけど、放っておくわけにはいかない。
私は仕方なく、職員室から雨合羽を持ち出し、しっかり着こむと、懐中電灯を持った。これだけ風が強いと、傘は役に立たない。
「どうしたの、美晴ちゃん」
のんびりとした寮長の声が私を呼び止める。寮長は五十を少し超えたおじさんで、住み込みで働いている。今は職員室のテレビで台風情報を見ていた。
「裏庭に誰かいたみたいなので、見てきます」
「えっ。僕が行こうか?」
とは言うけど、寮長は私より痩せていて、枯れ木のような体格だ。悔しいけど、私の方が多少は重量感がありそうだ。
「大丈夫です。すぐに戻ってきます」
職員用出入り口を開けるも、風に押し返されてしまう。いつもの倍の力を込めてドアを開け、外に出た途端、水滴が顔に痛いほど勢いよく叩きつけられる。
暴風に吹き飛ばされそうになりながら、壁伝いに裏庭へ回った。