黙って手を動かしていた土方さんが低い声で言った。

 寮生の列が彼をにらみつける。みんな、見たこともない男性が働いているので気にはしているようだったけど、誰も声はかけなかった。それほど関心はないのだ。

「え……」

「美晴はひとりひとりに挨拶をしているのに、こいつら誰も返さねえ。礼儀知らずなガキどもだ」

 寮生が目を吊り上がらせ、ますますこちらをにらむ。おばさんもハラハラしているのか、作業をする手元がもたついてきた。

「いいんですよ、土方さん。みんな、小さく頷いてたもんね? ね?」

 私が愛想笑いをふりまくと、寮生はフンと鼻を鳴らしたり、舌打ちをしたりしてその場を去っていった。

 みんな、朝食はきちんと持っていった。それだけでいい。彼らに十分な栄養をとってもらい、快適な生活をしてもらうのが私の仕事だもの。

 それに彼らの多くは、他人とのコミュニケーションが苦手だ。それも個性なので、無理をすることはない。

 それきり土方さんは押し黙り、無表情で配膳を進めていた。ここで口論を始めてはいけないと、空気を読んでくれたのだろう。