晴れて寮の職員となった土方さんは、翌日から堂々と寮の中を歩き回れるようになった。

「仕事中は汚れますから」

 私は土方さんに、エプロンをあげた。昔働いていた人からお下がりでもらったエプロンが何枚かあるので、一番ゆったりしたものを選んだ。

「おう、割烹着みたいなもんだな。かたじけない」

 私は噴き出しそうになるのを必死でこらえた。土方さんが着けているのは、水色のギンガムチェック柄で、胸にまあまあ大きい柴犬のキャラクターと犬の足跡がプリントされている。

 似合わない。けど、かわいい。

 笑いを噛み潰し、彼を厨房に案内する。同時にやってきたパートのおばさんに紹介し、朝食作りが始まった。現在午前五時。

「土方さん、早起き得意ですか?」

「まあな」

 髪が入らないよう、三角巾をつける土方さん。完全に顔面とミスマッチな格好なのに、パートのおばちゃんはボーっと見惚れていた。

「いい男だねえ。名前はなんていうんだい、土方さん」

「歳三だ。よろしく頼む」

「古風だね。じゃあトシさんって呼ばせてもらうよ」

 おばちゃんは機嫌よく鼻歌を歌いながら作業を始めた。彼女の浮き立った姿を初めて見た気がする。